歯周病治療
歯周病とはどんな病気?
歯周病とは「歯の土台が破壊され、歯を失う病気」です。
これに対して虫歯は「歯そのものが破壊され失う病気」といえます。
虫歯(齲蝕)も歯周病も細菌により起こります。細菌は、歯の表面や、歯肉についたプラーク(歯垢、歯苔)の中にいます。
両方とも歯を失うことに変わりありませんが、歯周病が進行すると歯の土台に致命傷を与え、入れ歯やインプラント等の処置が難しくなります。
歯茎も痩せて、周辺の健康な歯や治療中の歯にも悪影響を与えることになります。口の中が取り返しのつかない状態になる恐ろしい病気なのです。
そのうえ、統計的に見ても歯周病によって4割もの歯が失われています。
歯周病にも程度と症状はいろいろです。日常の歯のケアを怠っていると、歯周病の原因となるプラーク(歯垢、歯苔)が繁殖して、歯石(歯周病原菌の温床)が歯に付着します。
この状態では自覚症状がありません。ですが、立派な歯周病の予備軍です。
「リンゴをかじると血がでませんか?」というフレーズを覚えている方もいらっしゃると思います。
歯ぐきから血が出る状態は、初期から中程度の進行具合です。
まだ歯肉炎(歯茎にの症状がでる)の状態です。
このまま進むと歯がグラグラして歯周組織(セメント質、歯根膜や歯槽骨など)が破壊される歯周炎となります。
◇ お口の中の健康はこのようにして保たれています
皆さんのお口の中は、健康な状態であってもごくわずかな細菌が存在しています。
人体には、もともと細菌の活動に抵抗する力があり、歯肉溝(接合上皮)の部分には、白血球、マクロファージ、リンパ球が移動してきます。そして細菌と戦う準備をします。これが免疫の働きです。
このように人体には防御機構が働いているのです。
当歯科医院では予防歯科にも力を入れております。まず、自分のお口の状態を把握しましょう。 歯科医院へは歯が痛くなる前にメンテナンスとして来ていただきたいと思います。
◇ 虫歯も(齲蝕)歯周病も細菌感染症です
虫歯(齲蝕)も歯周病も細菌により起こります。細菌は、歯の表面や、歯肉についたプラーク(歯垢、歯苔)の中にいます。
細菌の活動に対する抵抗力(生体の防御力)は人によって大きな差があり、虫歯(齲蝕)や歯周病になりやすい人と、なりにくい人がいるのは、そのためです。
バイオフィルムについて
ここで簡単にバイオフィルムについて解説します。
バイオフィルムというのはさまざまな細菌が協力したり、拮抗したりして形成する共同生活体のことをいいます。
細菌はお互いに強固に結びついてキャンプを張って自分たちの生息している場所を形成しているので、簡単には取り除くことはできません。
バイオフィルムを除去するためには専門家の助けが必要になります。 以前はプラークと呼ばれていました。
歯根表面あるいは歯石の表面
※ 山本 浩正著 ペリオのためのバイオテクノロジーより 引用
なぜ歯周病になるのでしょう?
歯周病は、歯と歯肉のあいだ(歯肉縁下)に入った歯周病原菌によって起こります。
細菌の活動は、歯と歯肉の間の結合組織を徐々に壊し(付着の喪失の始まり)、すきま(歯周ポケット)を作ります。
このとき生体の防御力は、タバコやストレスなどの危険因子によって、大きく左右されます。
歯周病の初期の段階が歯肉炎で、炎症が深部組織(セメント質、歯周靱帯、歯槽骨)に進行したものが歯周炎です。
歯肉炎のはじまり
お口の中の細菌数が増えるにつれて、歯肉溝の部分に炎症症状が現れます。歯肉が赤く腫れ、出血が起こり、仮性ポケットが形成されます。これが歯肉炎です。
この段階で、病気に気付いて適切な治療を受ければ、大部分の歯肉炎は健康な歯肉に回復します。
歯肉炎の分類
◆大部分の歯肉炎 細菌性プラークによる歯肉炎 (単純性歯肉炎)
◆その他の歯肉炎
1.ステロイドホルモンによる歯肉炎
2.薬剤の副作用による歯肉炎
3.急性壊死性潰瘍性歯肉炎 など
歯周炎の分類
こうなると歯周炎
歯肉炎を放っておくと、歯と歯肉を結び付けている歯周靱帯(歯根膜)がこわされ(付着の喪失)、そこに歯周ポケットが形成されます。
続いて歯槽骨が吸収して歯がぐらぐらになり、(歯の動揺)、さらには歯周ポケットからうみが出るようになります。進行してしまった歯周炎は、治療して元通りの歯肉や歯槽骨の状態に戻すことはできません。
しかし、患者さんと歯科医の努力によって、ある程度まで健康な状態を取り戻すことは可能です。
末期の歯周炎になった例
下の2枚はそのまま放置され、末期の歯周炎になった例です。このような状態まで進行してしまうと、抜かずに治療することはできません。
※ この症例写真は新潟市で開業されていた石井歯科 院長 石井正敏先生より提供していただきました。
歯周病の進行を止めるには
歯周病の進行を停止させるためには、まずプラークをできる限り取り除き(プラーク・コントロール)、歯周病原菌を少なくさせなくてはなりません。
同時に患者さんの局所的、全身的な危険因子を取り除いたり、改善することによって、生体の防御力を強めることも必要です。
毎日の生活リズムを規則正しく、ストレスの少ない生活環境をつくることも大切です。
ストレスが多いと唾液の分泌量が減少し、その結果、唾液中の免疫物質S-IgAが十分働かなくなるからです。十分な唾液の分泌は、う蝕や歯周病の予防に重要な役割を果たし、口腔の健康の維持増進に大きく影響します。
S-IgAは口腔という局所免疫に関与していますが、全身的な免疫システムが生体の防御という役割を担っているのです。
◇ 歯周病の危険因子
局 所 的 因 子 |
全 身 的 因 子 |
●歯の形態●歯列の中の歯の位置(歯根の近接●歯周組織の形態●咬合関係(咬合の異常や咬合習癖)
●歯科医原性の治療 ●唾液腺の状態 ●口呼吸 ●プラーク中の病原菌 ●口腔衛生の状態(コンプライアンス) |
●遺伝的疾患●内科的疾患(糖尿病など)●ウイルス性疾患●ホルモンの分泌異常
●精神的ストレス ●喫煙、多量の飲酒 ●薬剤の服用による副作用 ●加齢(防御機構の減弱) |
◆口腔と全身は密接に関係し合っています。
歯周病治療の流れ
歯周病の予後は、以下の3つに大きく依存します。
(1) 初診時にどのくらいまで疾病が進行していたか
(2) 危険因子の把握が正しくなされ、対処されたか
(3) 患者さんのコンプライアンスが高いか
(医療担当者の指示や注意をよく守り実行するか)
慢性の病気である歯周病は、歯科医師や歯科衛生士など、術者の治療だけでは治りません。 患者さんと術者の共同作業なのですから、患者さん自身が、歯周病についてよく理解する必要があります。
歯周病治療の流れ
2つの基本治療
このような目的で治療をします。
- 歯肉の炎症症状を止める
- 歯周ポケット内の諸症状(出血・排膿・浸出物の存在等)を止める
- 付着の喪失と歯槽骨の吸収を停止させ、安定させる
- 再感染のもとになる歯周ポケットをできるだけ減少させる
- 再感染と炎症の再発をおさえる
- できれば歯根面への新付着をはかる
- 動揺歯を安定させる
- 健康で機能的な咬合を確立させる
- 外観的にも美しい歯周組織を創り出す
患者さん心得:これだけは覚えておきましょう
- 歯周病は細菌が原因の感染症である
- 組織学、細菌学的には、歯周ポケットからバイオフィルム(歯石やプラーク)を完全に除去することは不可能である
- 慢性疾患であり、完全な治癒は難しいが、コントロールはできる
- 治療後は、メインテナンスをしなければ感染力が抵抗力を上回り、再び付着の喪失が起こりえる
歯周病治療を成功させるには
歯周病の成否はコンプライアンス(医療受容度)に大きく左右されます。歯周病のような慢性疾患の治療が成功するかどうかは、患者さんが術者側の指示を正しく守るかどうか否かにあります。
これをコンプライアンス(医療受容の度合い)といいます。
生命をおびやかすような疾病や激しい痛みのある急性症状の場合には、コンプライアンスは高くなります。しかし、慢性疾患の場合には、継続的に長期間にわたってコンプライアンスを高めていくことは至難の業です。
歯科治療によって得られた口腔内の健康状態を維持し、疾病の再発を防止するためには、定期的で適切なプロフェッショナル・プラークコントロールの実施が不可欠です。
老化と歯周病の関係は?
大人数の集団を調査すると、高齢者ほど重度の歯周病になっていることがわかります。そのことから、老化を歯周病の危険因子ととらえる見方があります。老化によって体力、生殖力、新陳代謝はすべて衰退に向かうことは確かですが、口腔内組織も例外ではありません。感染症にかかりやすくなりますので、口腔内では病原菌の活動性が強まると考えられます。
ただ、個人差が非常に大きく、口腔衛生が良好に保たれていれば、加齢は歯周病の危険因子としてさほど重要ではないという報告もあります。